『ANEMONE』で『エウレカセブン』の世界が広がったからできたこと
――今回の『EUREKA/交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション(以下、EUREKA)』では、アイリスという少女が登場して、映画の前半は彼女とエウレカの逃亡劇が描かれることになります。
渡辺 これは皆さんも同じように感じられたと思うんですけど、「京田監督は毎回、変わったことを考えるなあ」と(笑)。ただ、その一方でこういう展開になることで、お客さんがスッと入ってこられる映画になるかもしれない、とも思いました。というのも、前回も少しお話ししましたけど、エウレカがひとりでお話を引っ張っていこうとすると、どんどん展開がつらくなっていくんですね。そこにアイリスを登場させることで、ある意味、師匠と弟子という形で物語が進められるな、と。そういう安心感はありました。アイリスと一緒に行動する姿を描くことで、エウレカ自身の成長も描けるだろうな、と。
――ロードムービー風なところも面白いですよね。
渡辺 あと『ANEMONE』のラストで、最初のTVシリーズの世界(交響詩篇の世界)が、こちら側の世界に出てくる展開になったわけですけど、今回の『EUREKA』では、こちら側に出てきた勢力をグリーンアース、もともと地球にいた人たちをブルーアースと呼んでいるんです。そして、グリーンアースとブルーアースの間で抗争が起きている。それこそ移民のような民族的な問題や、今の社会情勢を反映した構図になっているのですが、それも『ANEMONE』で『エウレカセブン』の世界が広がったからこそできたことなのかな、と思います。
――なるほど。
渡辺 あと『ANEMONE』で広がったあとの世界ということで言うと――これはネタバレになってしまうんですが、今回、ヒール(悪役)として登場するデューイが、最後のクライマックスでポロッと「俺、また騙されていたのか?」みたいなセリフを言うんです。そのときに鍵になるのが、劇場版『ポケットが虹でいっぱい』で出てきた雪月花なんですね。それを見たデューイが、この世界はエウレカが作った世界ではないことに気づく。言い換えると、エウレカ以外の人物であっても、シルバーボックスにコミットすれば、世界を生み出すことができるのかもしれない。そういう可能性が提示されているんです。
他のスタジオのロボットアニメと『ハイエボリューション』シリーズの違い
――エウレカをめぐるドラマももちろんなのですが、『エウレカセブン』といえば、やはりメカシーンも見どころのひとつです。今回もメカシーンは手描きなのでしょうか?
渡辺 そうですね。今、ロボットものをやろうとすると、やっぱりCGを使うのが主流というか、外せない状況になっているわけですけど、『エウレカセブン』の場合は特技監督をやっていただいている村木(靖)さんの存在が大きいんです。村木さんがいらっしゃるからこそ、手描きでメカシーンができる。
――もう少し詳しく聞かせてください。
渡辺 『ハイエボリューション』のメカ作画チームは『STAR DRIVER 輝きのタクト』あたりから、定期的にチームとして動いていて。村木さんはメカシーンのコンテも手がけているのですが、コンテの段階でキチンと画面が設計されていて、手描きの苦手な部分を極力出さないような形で演出をしてくださるんです。もちろん、メカシーンの演出といってもメカだけを動かしているわけじゃなくて、その上に乗せるエフェクトなど、いろいろなものをコントロールして作られている。それらがコンテの段階でしっかり設計されているから大変ではあるんですけど、不条理な大変さではないんです。スタッフの皆さんがついて来てくださるのは、たぶんそのおかげだろうし、ひとりのアニメーターの方が相当な数のカットを描けるのも、村木さんの力があってこそなのかな、と。他のスタジオでやるロボットアニメと『ハイエボリューション』の違いは、そこにあると思います。
――しかも今回は、メカデザインの第一人者である大河原邦男さんがデザイナーとして参加しています。
渡辺 ウルスラグナとオデッセイという機体のデザインをお願いしているのですが、京田監督としては、出渕(裕)さんのニルヴァーシュZや河森(正治)さんのラブレスとは違うラインの機体が欲しかったんだろうと思います。京田監督からは「ミリタリー色が強いメカ」というオーダーで「こういうふうに見せたい」という演出プランが明確にありましたね。そのおかげか、大河原さんからもすごいスピードでデザインが上がってきて。仕上がりを見て感動しました。
いちばん共感してもらえるのは、アイリスとエウレカの関係性かもしれない
――この記事がアップされる頃は劇場で公開されていますが、渡辺さんが個人的に楽しみにしているシーンはどこですか?
渡辺 まずは冒頭ですね。今回の『EUREKA』は前作『ANEMONE』の直後から始まるのですが、あのあと世界がどうなったのかっていう緊張感とともに物語が始まって、ラブレスや大河原さんデザインのメカが次々出てきて、アクションが繰り広げられる。その勢いを見ていただきたいと思います。
――たしかに見ていて圧倒されました。
渡辺 ただ、個人的にはそのあと、エウレカとアイリスが地球に降りてからのパートを面白いと感じているんです。ぶっちゃけて言うと、最初は「ダレ場なんじゃないか?」と思っていたんですけど、しっかりとお話が作り込まれていて、ここだけ見てもすごく楽しい展開になっていると思います。もしかしたら、いちばん共感してもらえるのはアイリスとエウレカの関係性かもしれないですね。アイリスが持っていたスマホをエウレカに取り上げられて、ポーンと放り投げられる場面があるんですけど、たぶん娘がいらっしゃる方はみんな「あるある!」と思うんじゃないかな、と(笑)。
――では、最後に劇場に足を運ぼうと思っている方に向けて、メッセージをお願いします。
渡辺 『ANEMONE』に引き続き見ていただければ、絶対に損しない、楽しんでいただける映画になっていると思います。「どうしようかな」と迷っている方は、騙されたと思って見ていただけるといいかな、と。皆さんのご来場、お待ちしております!
- 渡辺マコト
- 1971年生まれ。東京都出身。アニメプロデューサー。サンライズを経て、ボンズに入社。これまで手がけてきた主な作品に『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション』3部作、『亡念のザムド』『トワノクオン』などがある。